フィッシュマンズはどのように海外で人気になったか(前編)

音楽

海外のネットでフィッシュマンズの知名度が近年高まってきています。

特にアメリカ最大手の音楽コミュニティ『Rate Your Music(RYM)』では彼らのアルバムがベスト100に入り込むなど、非英語圏の音楽にしては異例の人気ぶりです。

しかしなぜ急に海外で人気が高まったのか、実は未だによく分かっていません。

そのため、私のほうで色々調査したところ、色々と興味深い事実が浮かび上がってきました。

本記事は前編と後編に分けて、私なりに「フィッシュマンズがどのように海外で人気になったか」解き明かすことができればと考えております。

各レビューサイトでの評価

そもそもフィッシュマンズは現在、海外でどのような評価を受けてるのでしょうか。

海外の各種レビューサイトを見てみましょう。

まず、アメリカ最大手の音楽コミュニティRYMでは、オールタイムベストで「Long Season」が38位、「男達の別れ」が17位にランクインしています。(2022年8月時点)

40-29位(Long Seasonは38位
24-13位(男達の別れは17位

上記画像を見て頂くと分かりますが、その周囲にあるのは誰もが知る名盤中の名盤ばかりです。

また、US音楽レビューサイトAllMusicや、各種メディアのレビューを集計してるAOTYでも軒並み高評価となっています。(2022年8月時点)

AllMusicAOTY
空中キャンプ★★★★☆ (25)83点
Long Season★★★★☆ (122)89点
宇宙 日本 世田谷★★★★☆ (34)86点
男達の別れ★★★★★ (43)91点

欧米でここまで支持される非英語圏の音楽というのも、他にはなかなか思い浮かびません。

またRYMでの評価の高まり(下図)注1を見る限り、今後より高評価が進む可能性もあります。

Long Season男達の別れ
2018年10月186位96位
2019年5月131位80位
2020年12月56位15位
2021年7月42位17位
2022年8月37位17位

注1) 本記事でも引用させて頂いているbeipana様より、「2019-20年に評価者数よりも評価の値に比重が置かれるようになったため順位が大きく変動している」との指摘を頂きました。ご指摘頂きありがとうございます。

レコードの高騰

こうした人気はレコードにも反映されています。

例えばアメリカのオークションサイトeBayDiscogsのマーケットプレイスでは、Long Seasonのレコードがここ最近では600ドル前後で取引されています。

2016年には50ドルほどだったことを考えたら、異常なまでの値上がりです。

2016年
2021-22年

シティポップブームで大人気の山下達郎や竹内まりやが(高くても)200から300ドルと言えば、その凄さが伝わるのではないでしょうか。

レコードは年々値上がりしており、評価の高まりによっては今後より高くなる可能性もあります。

ストリーミング配信

このフィッシュマンズ人気の一因として、まず海外へのストリーミング配信が考えられます。

2018年8月にSpotifyをはじめとするストリーミングサービスで、フィッシュマンズの配信が開始されました。

その4ヶ月後に、海外のSpofifyはフィッシュマンズを含めたプレイリストを公開。

下記記事によると、このプレイリストでSpotifyでのリスナー数が3倍弱に急増したようです。

Googleではプレイリストが出た2018年12月にフィッシュマンズの検索数が急増

また後述しますが、ストリーミング配信からRYMでアルバムのレビュー数が倍増しています。

このように2018年のストリーミング配信がフィッシュマンズの知名度を高め、海外人気を高める要因になったのは間違いなさそうです。

2018年よりも前に

ただ、ストリーミング配信前からフィッシュマンズはすでに海外で注目されていました。

下記記事は配信と同月の2018年8月に書かれたものですが、この時にはすでにフィッシュマンズの評価がRYMで相当高まっていたようです。

そして、この記事の最後に非常に興味深いことが書かれています。

一体、なぜ今評価が高まっているのか。この件を最初に教えてくれたBen君曰く「なぜかよくわからないけど、ここ1~2年で急速に評価が高まっていることは確か」とのことでした。

つまりストリーミング配信を開始した2018年よりも1〜2年前、フィッシュマンズは海外ですでに注目を浴びていたというのです。

どのようにRYMで人気になったか

RYM内でも、こうしたフィッシュマンズの人気の高まりを不思議に思う人達が現れます。

下記は2017年にRYMで立てられたスレです。

For RYM veterans, how did Fishmans get so popular on the site?
(フィッシュマンズはどのようにこのサイトで人気になったんだ?)

俺はここでフィッシュマンズのことを知ったんだが、彼らがどのようにして無名から有名に、このサイトで「男達の別れ」がデペッシュモードのバイオレーターよりも上位に来るようになったのか気になってる

2013年時点ではLong Seasonの評価数が200件そこそこだったから、人気になったのはここ最近だと思う

俺は2012-13年頃にLong SeasonをRYMで見かけた。高評価ではあったが、確か点数が3.6-3.7ぐらいで、5000位以内に入ってなかった気がする

だがここ1年くらいで爆発的に人気が出た。特に男達の別れは2016年に一気に投稿数を伸ばした

恐らくは/mu/の影響だろう、何せ日本のポップカルチャーに精通したサイトなので

/mu/…4chan(海外版5ちゃん)の音楽板

/mu/が大きく影響してるに違いない。そして俺の記憶が正しければ、mookidが確か2010年にフィッシュマンズのスレッドを立ててたはず

私がここにいた初期の頃(2007-9)、彼らがRYMでそれなりに評価されていたのは確かです

当時、Long Seasonはここで数百の評価数しかなく、ダブと見なされていたようですが

レゲエファンが怒り狂ってからダブだと見なされなくなったね

2008-12年時点では、空中キャンプが日本のRYMユーザーで一番人気だった。多くはなかったが、日本でカルト的な人気を誇っていたのでは

これらの書き込みを整理すると

  1. 2013年頃まではRYMでそこそこ高評価だったが、評価数はそこまでなかった
  2. それまでは日本人のRYMユーザーが高く評価していた
  3. 2016年頃に「Long Season」や「男たちの別れ」の人気が爆発的に
  4. そして人気が出た理由に/mu/が関わってる可能性がある

先ほど紹介した記事に「ここ1~2年で急速にフィッシュマンズの評価が高まっている」とありましたが、もし2016年に人気が高まったのであれば辻褄が合います。

人気が爆発した年

RYMでフィッシュマンズ人気が2016年に高まったことを示す、一つの例を紹介します。

下記はRYMで見つけた中で一番古い、2011年に立てられたフィッシュマンズのスレです。

Fishmans appreciation thread
(フィッシュマンズを楽しむためのスレ)

最近、フィッシュマンズ、特にLong Seasonと空中キャンプを楽しんでいます。カテゴライズが難しいですが、ドリーミーなダブミュージックに日本的なひねりを加えたような。他にファンいますか?

このあと数件の書き込みが続いた後、しばらく書き込みが途絶えます。

しかし5年後の2016年、このスレは急に復活を遂げます。それもかつてない盛り上がりとともに

男達の別れ、めちゃヤバい

男達の別れが急に200位以内に入ってるんだが、一体何が

不思議ですよね、2010年頃に初めて見つけた時は全く評価されてなかったのに

フィッシュマンズを知り興奮するユーザー、音源をシェアするユーザー、さらにLong Seasonのレコードを入手する人達も現れ、スレの盛り上がりは最高潮に達します

レコードを自慢するスレ住民

この突然の盛り上がりも、その背景に2016年のフィッシュマンズ人気の高まりがあったとすれば、十分に納得がいきます。

アルバムのリイシュー

また、こうした海外人気の高まりと並行して、2016年9月にこれまで廃盤だったアルバムが再発されたことも見逃せません。

それまで海外ユーザーは中古をDiscogsやeBayなどを通して買うことしかできず、送料も含めると決して安い買い物ではありませんでした。

フィッシュマンズの知名度がネットで高まった2016年にアルバムが再発になったのは、非常に幸運であったと言えます。

急増するレビュー

フィッシュマンズの突然の人気上昇は、RYMでのレビュー数にも表れています。

「Long Season」と「男達の別れ」の各年のレビュー数について調べたところ、2016年を境に急激に増加しています。

そしてストリーミング配信を開始した2018年以降、さらに2倍以上に急増しています

Long Season男達の別れ
2009年1件0件
2010年0件0件
2011年1件0件
2012年0件1件
2013年1件0件
2014年2件1件
2015年3件5件
2016年14件14件
2017年15件12件
2018年14件28件
2019年30件28件
2020年33件32件
2021年35件47件

さらにこの人気に応えるように、2016年4月にYouTubeでLong Seasonの検索数が跳ね上がっています

YouTubeにアップされたLong Seasonの動画は2016年から現在まで残っており、2022年8月時点で85万回再生されています。

ただ、一つの疑問が浮かび上がってきます。

なぜ2016年に急にフィッシュマンズが注目を浴びるようになったのか

実はRYM以外のSNSでも、同じ疑問を呈してる人達がいました。

Redditでは

Redditはアメリカで人気の投稿型のSNSです。

Redditには様々なコミュニティがあり、フィッシュマンズもコミュニティが2015年3月に設立され、2800人ものユーザーが所属しています。

同じ日本のアーティストですと、海外人気がある山下達郎で850人、ピロウズで1200人、宇多田ヒカルでも2100人なので、フィッシュマンズがここでも人気を集めてるのが分かります。

ちなみにフィッシュマンズよりも大きなコミュニティで言えば、ONE OK ROCKで4100人、Perfumeで5200人、Nujabesで3万6300人、BABYMETALで4万2200人になります。
(2022年8月時点)

(BABYMETALはまだ分かるとして、Nujabesのこの人気、これ誰か調査した方がいいのでは

そのRedditで2016年に次のフィッシュマンズのスレッドが立ちました。

Let’s Talk: Fishmans
(フィッシュマンズについて語りましょう)

フィッシュマンズは、最近インターネット上の様々な音楽コミュニティでかなりの注目を浴びているバンドですが、Redditではあまり注目されていません。1998年、フロントマンの佐藤伸治の早すぎる死によって解散した彼らが、ここ数年でこのような評価を得るようになったのが不思議です。ここ数年の間に、主にインターネットや口コミで欧米の聴衆に知られるようになったようです。
(中略)
突然の人気の原因は何なのか?なぜ彼らの発見にそれほど時間がかかったのでしょうか?

2016年にこんなスレッドが立つことからも、この時すでに高まっていたフィッシュマンズの人気が伺えます。

みんなのコメントを見てみましょう

フィッシュマンズは/mu/で非常に人気があり、私も去年そこで初めて知りました。当時、Long SeasonはRYMで900以下の投票数でした。フィッシュマンズの、特にLong Seasonがドリームポップの名作と認定されるようになったのは/mu/のおかげだと思います。

その通り、どのフィッシュマンズスレにもとんでもない数のアンチがいるくらい人気なんだよな

フィッシュマンズの海外人気は/mu/(海外版5ちゃんねるの音楽板)の影響が大きいそうです。さらにアンチも相当数いるということですが、これは次の記事で触れることにします。

急に人気が出てきたのは、音楽を簡単に見つけて共有できるようになったことが主な原因だと思います。私の知る限り、彼らは日本ではかなり有名ですが、/mu/や他の音楽コミュニティが彼らの音楽を共有し始めるまで海外ではあまり人気が出なかったようです。彼らが活動していた頃は自分の国でリリースされていない音楽を簡単に探す方法がなかったため、欧米ではほとんどの人が彼らを発見することはありませんでした。

こちらも次の記事で触れますが、この「音楽を共有」というのも大きな要素となります。

私の中でトップ5に入るバンドです。Long Seasonは素晴らしく、私が10/10をつけた30枚のうちの1枚です。男達の別れも(ある意味コンピ盤なのでカウントしませんが)そうですし、宇宙日本世田谷も私にとっては9/10です。空中キャンプもこれら3つほどではないにしろ素晴らしく、RYMでは8/10をつけました。

海外のフィッシュマンズ人気で興味深いのは、Long Seasonと男達の別れが圧倒的に人気があり、日本で一番名盤とされる空中キャンプが実はそこまで評価されていない点です。

フィッシュマンズのキャリアの中で、なぜLong Seasonがとりわけ特別視されるのか、次の記事でそこについても取り上げようと思います。

/mu/とは何か

これまでRYMやRedditを見てきましたが、彼らの多くがフィッシュマンズの海外人気について/mu/の名前を挙げています。

そもそも/mu/とは一体何でしょうか。

/mu/は海外の画像掲示板4chan音楽板です。

4chanは、海外版5ちゃんねるのようなもので、ふたば☆ちゃんねるの影響で2003年に生まれ、現在はひろゆきが管理人となっております。興味のある方はぜひ調べてみてください。

4chanはその起源からも分かるように、日本のオタク文化が色濃く出たサイトです。

そのため、日本のバンドであるフィッシュマンズに彼らがいち早く飛びつくのも、それほど驚くことではないのかもしれません。

いま海外で注目を集めてる「シティポップ」にもかなり早い段階で手をつけてたようですが、話を戻しましょう。

/mu/に集う音楽ファンですが、メジャーなものよりもマニアックな音楽を好む傾向があります。

下記画像は/mu/住民が特に好む音楽を纏めたもので、画像をクリックして見て頂きたいのですが、有名作の中にコアな作品が混じっています。

/mu/住民が選ぶ必聴盤(2015)

次の画像はRYM住民が好む音楽で、その好みは/mu/住民と似通っており、/mu/からの影響はRYM住民もある程度は認めるもののようです。

RYM住民が選ぶ必聴盤

ここで注目して頂きたいのが、/mu/住民が選出したアルバムの中でフィッシュマンズのLong Seasonが選ばれているということです。

この画像は2015年に作られたものなので、RYMで流行るよりも1年前にフィッシュマンズが/mu/で人気だったことが分かります。

そして2013年にも同じような画像が/mu/で作られていますが、こちらにはフィッシュマンズが入っていません。

/mu/住民が選ぶ必聴盤(2013)

つまり2013年から2015年の間の2年間に、/mu/でフィッシュマンズの人気が高まる動きがあったということになります。

次の記事では/mu/で当時何が起きたのか、詳しく見ていくようにします。

まとめ

ここまでのフィッシュマンズの話について、一旦整理してみましょう

  1. 2018年に配信が始まるが、その前からRYMで人気だった
  2. RYMで人気が急上昇したのは2016年からで、その要因は/mu/に関わりがある
  3. 2013-15年の間に/mu/で人気が高まった

この次の記事(後編)では、/mu/の調査を進め、何故フィッシュマンズが急に海外でこれほど注目を集めるようになったのか、その謎について解き明かすように致します。

𝑷𝒆𝒕𝒆𝒓
𝑷𝒆𝒕𝒆𝒓

最後までお読み頂き、
ありがとうございました。

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