フィッシュマンズはどのように海外で人気になったか(後編)

考察

フィッシュマンズの人気が海外でどのように高まったのか、引き続き見ていきます。

前編では下記のことを話しました。

  1. 2018年に配信が始まるが、その前からRYMで人気だった
  2. RYMで人気が急上昇したのは2016年からで、その要因は/mu/に関わりがある
  3. 2013-15年の間に/mu/で人気が高まった

後編では下記について取り上げます。

  1. 4Chanの音楽版/mu/でフィッシュマンズがどのように人気になったか
  2. なぜ海外ではLong Season男達の別れが特に人気なのか
  3. 欧米以外でのフィッシュマンズ人気

なお、前編をまだ読まれていない方は、是非そちらを先に読まれることをお勧めします。

誰も知らなかった

2012年にはフィッシュマンズは海外でごく一部の人しか知られておらず、/mu/でも話題にする人はほとんどいませんでした。

例えば、これは/mu/で見つけた一番古いフィッシュマンズのスレ(2012年8月)ですが

/mu/住民はフィッシュマンズとか聴くの?

おうよ、RuneScape(オンラインゲーム)での俺のフィッシングスキルは99だぜ

これで会話が終わってます
(まじで誰も知らなかったっぽいです)

その翌月の2012年9月、とある人物によって/mu/のこの状況に変化が生じていきます。

完璧な布教活動

日本のお勧めの音楽は?」というスレに、Mootkipsという名前のユーザーが現れ、

Mootkips
Mootkips

またこれを投稿する時が来たか

そう言って彼は、鬼のように長いアルバムのリストを置いていきます。

鬼のように長いリスト

鬼のように長いうえに選盤が超マニアックなこのリスト、よく見てみるとフィッシュマンズのLong Seasonが含まれています。

Mootkipsは他のスレにも次々と姿を現し、様々な人にLong Seasonを勧めていきます

それも作品名だけではなく、バンドの解説YouTubeファイル共有のリンクとともに。

まさに100点満点の布教活動と言えます。

結果は果たしてどうでしょうか。

/mu/での「Fishmans」の書き込み数を抽出したところ、Mootkipsの書き込み(赤数字に比例してフィッシュマンズの投稿が増えています

6月7月8月9月10月11月12月
201265817 (5)30 (10)47 (17)26 (13)
1月2月3月4月5月6月7月
201358 (24)34 (6)26 (3)21 (2)36 (2)3525

このように彼の地道な布教活動は実を結び、フィッシュマンズは/mu/住人に知られることに。

「RYMでフィッシュマンズの投票数が少ないのは、Mootkipsが流行らせるまで日本以外では無名だったからだよ」*1

彼は時に熱くなる事もありましたが、フィッシュマンズをとても愛していました

(Long Seasonに4/10の点をつけたユーザーに対して)
は?このアルバムを他と一緒にするなよ。てかお前の批評ってめちゃくちゃ杜撰だな

Mootkipsはフィッシュマンズの作品を一通り/mu/にアップロードし終えた後、しばらくフィッシュマンズについて呟かなくなります。

日本の音楽を広めた人たち

Mootkipsは並の日本人より遥かに日本の音楽に精通しており、それは彼が作成した日本のディープなアルバムリストを見れば分かります。

/mu/には他にも日本の音楽に詳しいユーザーが多数存在し、彼らはそうした音楽の音源MEGA(オンラインストレージ)などにアップロードし、他の/mu/ユーザーにシェアします。

/mu/に上がった日本の必聴盤リスト(2017)

このように日本文化をことさら愛するユーザーはWeeaboo(ウィアブー)と呼ばれ、海外のネットでは馬鹿にされる風潮があります。

「日本の音楽が全然流行らないのは、ウィーブと呼ばれることに不安を感じているから。欧米では非常にニッチなので」*2

しかしこうしたユーザーのおかげで、フィッシュマンズを始めとする日本の素晴らしい音楽が海外に広まったことはもっと知られるべきでしょう。

/mu/chella

フィッシュマンズ、特にLong Seasonは徐々に口コミでその知名度と人気を増していきます。

そしてMootkipsの投稿から2年後の2014年冬、人気は一つのピークを迎えます。

その一つがアルバム試聴会です。

/mu/では2012年から16年まで夏と冬の年2回、ストリーミングによるアルバム試聴会「/mu/chella」を開催していました。

2015年開催時のポスター

この視聴会で2014年の冬に、フィッシュマンズのLong Seasonが選ばれます。

ちなみにこの日は「Glorious Nippon」ということで下記日本の作品が選ばれましたが、/mu/らしいマニアックな選盤です。

  1. なんだこれくしょん(きゃりーぱみゅぱみゅ)
  2. Jet Generation (ギターウルフ)
  3. 千のナイフ (坂本龍一)
  4. Satori (フラワー・トラベリン・バンド)
  5. Mizutani (裸のラリーズ)
  6. Fetch (Melt-Banana)
  7. Roro (BOaT)
  8. Long Season(フィッシュマンズ)
  9. Heavy Rocks(Orange) (Boris)

視聴会に選ばれるアルバムは投票制のため、Long Seasonの人気がこの時点で/mu/で高まっていたことが分かります。

アルバム投票

また2014年冬には、/mu/住人によるアルバム投票が行われ、フィッシュマンズのLong Seasonが9票で58位ランクインしました。

同じ9票にはビートルズのリボルバーやNasのIllmaticなどの超名盤が並びます。

ちなみにこのランキングの結果については、私のTwitterアカウントでも纏めています。

そしてこの投票結果をもとに、前編でも取り上げた下記画像が作られます。

/mu/住民が選ぶ必聴盤(2015)

MootkipsがLong Seasonをシェアしてから2年後の2014年、Long Seasonはついに/mu/を代表するアルバムになりました。

下は2012-2014年の「Fishmans」の書き込み数を抽出したもので、徐々にその数を増していってるのが分かります。

1-6月7-12月合計
2012年 139139
2013年210272482
2014年4267291155

フィッシュマンズとミーム

4chanにはミームという、いわばネタ的なものを生み出す文化がありますが、人気が高まったフィッシュマンズもその例外ではありません。

2015年のフィッシュマンズスレで、漫画「釣りキチ三平」の画像を投稿する人が現れます。

なんだこのルフィみたいなキャラは」という反応をされますが、「日本の漁師(Fishman)」ということで/mu/住人も面白がって釣りキチ三平の画像を貼るようになります。

日本の漫画やアニメに精通した、いかにも4chanらしいミームと言えますね。

またある時、ボックスセットがシートベルトでカバーされてる奇妙な写真とともに、次の文章が書かれた画像がアップされます。

この画像に次の返信をすれば、素晴らしい音楽とともにこのボックスセットが貴方の元に届きます。
「DRIVE SAFE FISHMANS!(安全運転でね、フィッシュマンズ!)」

その後、フィッシュマンズスレにこの画像が上げられては「DRIVE SAFE FISHMANS!」とコメントする流れが生まれます。

ちなみにこのボックスセット、世田谷3部作や男達の別れなどのレコードが入ってて、現在は目ん玉が飛び出るぐらいの価格で取引されています。(開封動画もYouTubeに上がっています)

このように/mu/住人から愛されたかのように見えたフィッシュマンズですが、2016年、スレは思わぬ展開を見せます。

人気絶頂から一転

2016年、/mu/でのフィッシュマンズに関する投稿はピークを迎えます。

1-6月7-12月合計
2012年 139139
2013年210272482
2014年4267291155
2015年5728431415
2016年228211743456

2016年に書き込みがとんでもなく伸びていますね。人気のように見えますが、逆です。

フィッシュマンズスレは、

荒れに荒れました。

「久々に/mu/に来たんだが、なんで急にジェイソン・アルディーンのアルバムがフィッシュマンズスレに貼られるようになったんだ??*3

ジェイソン・アルディーンというカントリー歌手の画像が何故かフィッシュマンズスレに大量に貼られるようになります。

ジェイソン・アルディーンとLong Seasonを組み合わせたジャケ画像や、「ジェイソン・アルディーンが佐藤伸治を銃殺した」というWikipediaの画像、さらにジェイソン・アルディーンとLong Seasonのマッシュアップまで作られます。

こうしたミームに加え、フィッシュマンズスレはファンに対する差別的発言、フィッシュマンズへの罵詈雑言に溢れます。

平和だったフィッシュマンズスレが、なぜ急に荒れてしまったのでしょうか。

このことについて、当時の/mu/での書き込みから推測することができます。

一人の男が潰してしまった

時は少し遡って2015年12月、Aaronと呼ばれるユーザーがジェイソン・アルディーンの画像で荒らし行為を行います。

運営に削除されたのか、Aaronの投稿の特定はできなかったものの、彼の荒らし行為は複数の人が証言しており、確かな話だと思われます。

この時はアルバム「Old Boots, New Dirt」のジャケを張るぐらいで、フィッシュマンズは特に標的になっていませんでした。

Old Boots, New Dirt

その翌月の2016年1月、Aaronの標的はフィッシュマンズに移ります。

「Aaronは平和なフィッシュマンズスレを見つけて、それをめちゃくちゃにすることを決めたんだよ」*4

積み重なった火種

実はフィッシュマンズ叩きの前兆はありました。

この頃はフィッシュマンズを持ち上げるスレが/mu/で乱立し、冷ややかな目がありました。そして/daily/とRYMがやり玉に挙がります。

/daily/とは毎日新しい作品を聴いて点数をつけるスレで、特にフィッシュマンズは人気があり、数多く聴かれています。

/daily/の一番重要な作品」として男達の別れが選ばれている

また2016年RYMでフィッシュマンズ人気が高まった年でもあり、/mu/住人は/daily/住人RYM住人こうした投稿を繰り返してると考え、反感が徐々に高まっていきました。

そしてたった一人の荒らしによって、フィッシュマンズはミーム(ネタ)となり、叩く動機と正当性が与えられてしまったのです。

「ジェイソン・アルディーンはAaronの去年のミームで、それが復活した。
フィッシュマンズはRYMと/daily/のユーザーによって毎日投稿され、彼らはそれを史上最高のアルバムと呼び続けたので、人々は対抗するためにジェイソン・アルディーンでスパムを始めたんだ」*5

ジェイソン・アルディーンとフィッシュマンズのどちらが優れてるか」というスレが立てられるや否や、フィッシュマンズスレがジェイソン・アルディーンのスパムで溢れます。

そしてフィッシュマンズを馬鹿にする投稿とともに、RYMユーザー日本の音楽が好きな人たちを嘲笑する投稿までもが増えていきます。

最初、フィッシュマンズは/mu/で人気になり、それは2016年にRYMなどにも波及しました。

ただ皮肉にもそれが/mu/でのフィッシュマンズヘイトにも繋がったのかもしれません。

そしてRYMへ

フィッシュマンズ人気は/mu/で2012年から2015年にかけて高まり、その翌年の2016年にRYMでも人気が爆発的になります。

/mu/とRYMの関係性について、2017年にRYMで立てられたスレを見てみましょう。

How big of a overlap is there between RYMers and /mu/?
(RYMユーザーと/mu/で評価はどれぐらい重なってるのか)

RYMである特定のアルバムやアーティスト/mu/のお気に入りであるために高い評価を受けているという話を時々耳にします。RYMと/mu/で重なりはどれぐらいあるのでしょうか?

重なりはめっちゃ大きい

RYMは/mu/ほどシニカルで悲観的ではないが、大きく重なっていると思う

/mu/で支持される作品はRYMでも高く評価され、その影響はかなり大きいもののようです。

フィッシュマンズのことだな

友人の/mu/ユーザーは5年前からフィッシュマンズについて話していた、/mu/が彼らの人気上昇に貢献したんだろう

RYMが/mu/から影響を受けた作品として、真っ先にフィッシュマンズが挙がっています。

そして2017年の5年前というのは、Mootkipsの布教活動(2012年)と重なります。

RYMでのフィッシュマンズ人気は/mu/の影響があったと見て間違いがなさそうです。

1) 4Chanの音楽版/mu/でフィッシュマンズがどのように人気になったか

  1. Mootkipsが/mu/でフィッシュマンズを布教、徐々に人気が高まる(2012-3年
  2. mu/のアルバム視聴会やアルバム投票でLong Seasonが選ばれる(2014年
  3. 人気がRYMに波及、/mu/ではフィッシュマンズが荒らしで叩かれるように(2016年

なぜLong Seasonなのか

ところで海外では、日本で最高傑作とされることが多い空中キャンプよりも、Long Season男達の別れが高く評価されています。

まず日本のネットユーザーや各種メディアの邦楽ランキングを見ますと、

空中キャンプLong Season宇宙 日本 世田谷男達の別れ
みんなが選ぶ邦楽アルバム3位141位12位104位
音楽だいすきクラブ13位23位
Snoozer3位
ローリングストーン8位
タワーレコード21位
ブックオフ59位
エレキング3位
ミュージックマガジン6位143位43位

空中キャンプの人気が圧倒的です。

どのランキングにも上位にくる空中キャンプ、そしてたまに宇宙 日本 世田谷が入る中で、Long Seasonや男達の別れはほぼ圏外です。

むしろこれはこれで偏ってる気がしないでもないですが、海外のランキングを見てみますと、

空中キャンプLong Season宇宙 日本 世田谷男達の別れ
RYM3.78点(1786位)4.18点(37位)3.99点(252位)4.37点(17位)
AOTY83点89点86点91点
Best Ever Albums80点86点83点88点

こちらは日本とは逆に、Long Seasonと男達の別れが圧倒的な評価です(2022年8月時点)

空中キャンプも初期-中期作よりは評価されてる方ですが、それでも前二つには遠く及びません
(ちなみに初期-中期作も含めた評価はこのTier Listが分かりやすいです)

海外と日本で、何故ここまで評価される作品が異なるのでしょうか。

フィッシュマンズへの入り口

/mu/でのフィッシュマンズ人気は、MootkipsがLong Seasonを積極的に取り上げることで火がつきました。

そしてアルバム視聴会アルバム投票でもフィッシュマンズからLong Seasonが選ばれます。

つまり多くの/mu/住人にとってLong Seasonはフィッシュマンズへの入り口であり、「フィッシュマンズといえばLong Season」という共通認識が生まれたとしても不思議ではありません。

フィッシュマンズでLong Seasonしか聴かない人を揶揄した画像

下記画像は2016年に/mu/に上がったフィッシュマンズのガイドラインですが、開始がLong Season、ゴールが男達の別れとなっています。

フィッシュマンズの入門用ガイドライン(2016)

男達の別れでのLong Seasonの演奏は「スタジオ盤よりも良い」と言われるほど海外でも人気があり、まさにLong Seasonで入門を果たしたユーザーのゴールに相応しいものです。

Long Seasonの海外人気の考察で「男達の別れの人気に引きづられて」というものがありますが、むしろ男達の別れがLong Season人気に引きづられたと考えるべきかもしれません。

「男達の別れはLong Seasonに加えて他のも聴けるという画像、メインはあくまでLong Season

「彼らが最後にリリースした男達の若さは、彼らの素晴らしいフィナーレであり、Long Seasonsを含む彼らのベストソングの素晴らしい演奏が入ってるんだ」*6

(男達の別れは)
全曲最高でより良い演奏+SMIRIN DAY SOMER HORIDAY+シンセが今までより最高(過去のアルバムではクソ)+Long Seasonのベストバージョン(特に中間部の壮大でハードコアなドラム)+このアルバムがフィッシュマンズの最後で、悲劇の直前という背景=最高のライブアルバム*7

ちなみにこちらも2017年にRedditに上げられたガイドラインで、より詳しくなっているものの、開始がLong Seasonなのは同じです。

フィッシュマンズの入門用ガイドライン(2017)
全ての起点がLong Seasonになってる

その内容よりも

同じような疑問はRYMのフィッシュマンズスレで上がっています。

「実はLong Seasonがここまで愛されてる理由がよく分からない。彼らの他の作品と比較して、宇宙 日本 世田谷や空中キャンプも同じくらい良いと思うので、Long Seasonがとりわけここまで注目されるのが意外です(特に空中キャンプが日本での最大のヒット作であることを考えると…)」

まさに多くの日本のフィッシュマンズファンが疑問に思うところですね。

この質問への回答を見てみましょう。

「フィッシュマンズで最初に注目されたのがLong Seasonだったのでしょう。
恐らく/mu/のような気がしますが、フィッシュマンズが爆発的に人気になる前を知っている人に検証してもらいたいですね」

これはまさしく私が先ほど説明した「/mu/でLong Seasonがフィッシュマンズの入り口になった」を裏付ける話ですね。

そして、人気になった理由について、内容よりもそのフォーマットにこそあると続けます。

「人々の印象に残り、最初に勧められることが多いのは、ポップとダブを独特な方法で組み合わせた一曲のみの一枚で、彼らのアルバムでは一番短く、そして結果的に一番人気があるのでネットでも一番探しやすいということなのでしょう」

同じことを他のユーザーも指摘します。

「Long Seasonが最も人気があるのは、その内容よりも、簡単に検索できて消化しやすい(1曲で長すぎず、アルバムや曲名にアジアの文字がない)ためだとも思っています」

つまり、Long Seasonが海外で人気になった理由について纏めると、

  1. 海外で一番最初に紹介された
    → 入り口としてスタンダードに
  2. アルバムが一曲35分と短い
    → 聴くための敷居が一番低い
  3. アルバム名や曲名が英語(Long Season)
    → 日本語ではないので検索がしやすい
  4. すでに人気ゆえに探しやすい
    → 情報や音源にすぐアクセスできる

付け加えると、2018年12月にSpotifyが自動で作成したプレイリストでフィッシュマンズを重点的に紹介したのですが、この直後にRYMでLong Seasonのレビュー数が急増しています。

Long Seasonレビュー数
2018年9月1
2018年10月2
2018年11月0
2018年12月4
2019年1月4
2019年2月4

一曲一作品の構成が図らずもプレイリストの時代(=曲単位で評価)と相性が良かったのかもしれません。

「Spotify最初に紹介したのが35分の曲だった」

最も野心的な音楽

果たして音楽性についてはどうでしょうか。

/mu/やRYMではオルタナティヴな(尖った)音楽が特に高く評価される傾向にあります。

特に人気が高いGY!BEやSwansなどは一曲が長く抽象的スピリチュアルドラマチックな展開が特徴的です。

「45分間の何も起こらない音楽に耐えられないのであれば、さらに同じ42分間も耐えられないだろう」
GY!BEの音楽が2枚組と長く、内容も難解なのを皮肉った画像

それらと比類する作品が20年前の日本のアンダーグラウンドなシーンから出てたというのは、相当なインパクトだったのではないでしょうか。

空中キャンプなども確かに優れたアルバムではありますが、よりオルタナティヴで野心的な作品という点では一曲35分大部分がインストのLong Seasonに軍配が上がるかと思います。

「ちょっと一曲聴くか」→ Long Season
その曲の長さから海外でネタにもされる

「Long Seasonが彼らの最も壮大で野心的な作品だからです。その壮大な表現と性質から、最も傑作とみなされやすいのです」*8

Wikipediaを見ると

アメリカのフィッシュマンズのWikipedia2005年に作られ、熱狂的なファンの手によって日本版をも凌ぐボリュームになってます。

彼らのディスコグラフィに移りましょう。

作成年記事
2013年Long Season
2014年King Master George
2014年男達の別れ
2020年宇宙 日本 世田谷

Long SeasonやKing Master George、男達の別れの記事は2013-14年、/mu/でフィッシュマンズが流行りだした時期に作られています。

それに引き換え、宇宙 日本 世田谷の記事は2020年にようやく作られ、空中キャンプを含むその他全作品の記事は現在も作られていません
(2022年8月現在)

このことから、海外でのLong Seasonや男達の別れの注目度の高さが伺えると同時に、その他の作品については知られる機会が今なお制限されてると考えることができます。

2) なぜ海外ではLong Season男達の別れが特に人気なのか

  1. Long Seasonは/mu/で最初に紹介され、海外でのフィッシュマンズ入門の立ち位置に
  2. 意欲的な内容で、尺が短く、英語名で、音源や情報が溢れてることで幅広く聴かれた
  3. Long Seasonの人気に比例し、同曲のベストアクトを収めた男達の別れも人気に

韓国などでも

実は欧米よりも遥かに先駆けてフィッシュマンズが評価されていた国があります。

2000年1月に韓国でフィッシュマンズファンがコミュニティ『空中キャンプ』を結成、その3年後にソウルの若者文化の中心地ホンデでバー兼ライブハウス『空中キャンプ』が誕生します。

ここでは常にフィッシュマンズや日本の音楽が流れており、2007年から定期的にライブイベント『すばらしくてNICE CHOICE』を下記日本アーティストを招いて行なっています。
(ライブの様子はYouTubeで見れます)

  • ハナレグミ
  • キセル
  • Polaris
  • bonobos
  • サニーデイサービス
  • 空気公団
  • エマーソン北村
  • VIDEOTAPEMUSIC
  • フィッシュマンズのメンバー…他
フィッシュマンズメンバーも参加した10回目公演(2010

他にも彼らは富川ファンタスティック国際映画祭(2006年)や釜山国際映画祭(2022年)で韓国でのフィッシュマンズの映像作品の上映について働きかけるなど、活動は多岐に渡ります。

また、実は韓国インディシーンではフィッシュマンズが人気で、音楽のみならず美術などの分野でも影響を与えています。

Kwon Hye-Seong「Back beat !」展示会(2020)

そのきっかけとして、1990年代に韓国でパソコン通信サービスを使ってた人々がフィッシュマンズの情報を共有し、コミュニティ『空中キャンプ』もその流れでできたようです。

また韓国以外でも盪在空中雀斑樂團などの台湾のバンドがフィッシュマンズ好きを公言したり、タイの人気インディーロックバンドがフィッシュマンズのボーカルとして起用されるなども。

フィッシュマンズの人気はアジアでも今後高まることが予想されます。

オルタナティブロックにダブ/レゲエを融合させた台湾バンド、盪在空中

3) 欧米以外でのフィッシュマンズ人気

  1. 韓国には『空中キャンプ』というフィッシュマンズファンが経営するバーがある
  2. 韓国インディシーンでもフィッシュマンズ人気、影響は美術などにも
  3. 韓国以外でもフィッシュマンズの影響を公言するアーティストが現れる

終わりに

フィッシュマンズの海外人気の記事は多くありますが、人気になった理由については「音楽が素晴らしいから」というものがほとんどです。

確かに彼らは素晴らしいバンドですが、どちらかというとアンダーグラウンドな存在で、日本人でもよほど音楽好きでない限り知りません。

そんなバンドがどのように海外のネットで広く知られるようになったのか。

その長年の謎に決着をつけるべく、様々な情報源に当たりながら、この記事では人気になるまでの過程について辿るようにしました。

ほぼ無名だったフィッシュマンズがここまで欧米で人気になった理由、その背景にはとある海外のファンの存在がありました。

海外掲示板での布教から口コミで高まった人気は外へと広がり、やがて海外の音楽コミュニティで絶大な評価を獲得するまでに至ります。

非英語圏、それも20年も前に活動休止したバンドが欧米でここまで高く評価されるようになるのはかなり珍しく、フィッシュマンズはとても稀有な成功例であると言えます。

さらにこうした人気は欧米のみならずアジアにも広がっており、今後の動向について引き続き追っていきたいと思います。

なおこの記事について、何か疑問点追加情報修正すべき箇所などございましたら、是非私のほうまでご連絡頂けますと幸いです。

これはFishmanこと釣りキチ三平
年(西暦) 出来事
1987年佐藤伸治、小嶋謙介、茂木欣一の3人でフィッシュマンズ結成
1999年佐藤伸治の死去でフィッシュマンズの活動休止
2000年韓国のフィッシュマンズファンがコミュニティ『空中キャンプ』を結成
2003年韓国のホンデでバー兼ライブハウス『空中キャンプ』が誕生
2005年アメリカのWikipediaでフィッシュマンズのページが作られる
2006年韓国の国際映画祭でフィッシュマンズのドキュメンタリー作品を上映
2010年2007年から毎年開催していた韓国『空中キャンプ』のライブイベント日本に上陸
2012年Mootkips/mu/でLong Seasonを布教
2013年/mu/でのフィッシュマンズの人気が口コミで徐々に高まる
2014年/mu/でLong Seasonの視聴会、アルバム投票ではLong Seasonが58位
2016年RYMでも人気が爆発、アルバムリイシュー、/mu/では逆に叩かれるように
2018年ストリーミング配信開始でさらに人気が急増
2019年各曲の解説や英訳が載ったFishmans Wikiがファンにより作られる
2020年Long Seasonと男達の別れがRYMランキングの上位100位以内
2022年韓国の釜山国際映画祭で「映画:フィッシュマンズ」の上映決定

本記事の/mu/の過去ログはDesuarchiveを参照していますが、2012年5月以前に遡ることができない為、それ以前のアーカイブの取得方法があればご教示頂けますと幸いです

最後までお読み頂き、
ありがとうございました。

コメント

  1. saz より:

    Long seasonはリリース当時は(とても長い)マキシシングルという扱いだったように思います。国内の「アルバム」チャートに入らないのは、そのことが影響しているのでは?と思いました。

    • そうなんですね、興味深いです。前身の「Season」はシングルとして出てたと思いますが、「Long Season」については調べてもそういった情報が見つからなかったので、もし何か情報源あると嬉しいです。あと国内のアルバムチャートとは私が記事で取り上げた邦楽ランキングのことでしょうか。一応ランクインもしてるので、アルバムという認識は一応参加者にもあったのかなと思います。

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