ロシアで2010年代に突如誕生した音楽ジャンル「メイドコア」。
全ては、とあるロシア人が虹裏メイドの「ヤクいさん」の名前、「Yakui The Maid」で音楽を出したことから始まりました。
そのことについては記事で纏めてますので、未読の方はそちらもお読み頂けますと幸いです。
その「メイドコア」を調査する中で、「Yakui The Maid」で音楽を出した本人(以下、Yakuiさん)と会話する機会を得ました。
突然の依頼であったにも関わらず、インタビューに快諾して下さったYakuiさん、どうもありがとうございました!
そしてYakuiさんと連絡し、インタビューを取り付けてくださったひつじさん(@hituji111)、どうもありがとうございました!
Peter
サイトの管理人。うどんとラーメン大好き
Yakuiさん
「Yakui The Maid」で音楽を出してるロシア人で、「メイドコア」を始めた張本人。虹裏メイドの「ヤクいさん」をこよなく愛する
ヤクいさんとの出会い
Peter
現在「メイドコア」について記事を執筆中で、音楽についてとても魅力的だと感じています。これからいくつか質問させて頂いても宜しいでしょうか。
Yakuiさん
どうぞ。
Peter
ありがとうございます!実は調査の中で下記インタビュー記事に目を通しており、貴方のことについては少しながら知っております。もちろんこれだけでは全く十分ではないですが。「ヤクいさん」[1]について、どのように発見したのか是非知りたいです。
[1] 薬物中毒の虹裏メイド。海外のネットで人気

Yakuiさん
とあるロシアの薬物関連の画像掲示板で、2000年代にマスコットである彼女の画像がたくさん張られていました。そしてGoogle検索をし、虹裏メイド[2]のことを知りました。その時、私は様々なマスコットキャラの画像を集めていました。
[2] 画像掲示板「ふたば☆ちゃんねる」の「虹裏」のメイドたち。詳しくは「メイドコア」の記事で
Peter
なるほど、そのロシアの画像掲示板とは何でしょうか。Dvach[3]とか?
[3] ロシア語圏最大の画像掲示板
Yakuiさん
「Omichan」と呼ばれるもので、現在は存在しません。もっとも、他にも様々な画像掲示板で「ヤクいさん」の画像が投稿されていましたが。
Peter
彼女は「420chan」[4]と呼ばれる薬物関連の画像掲示板でもマスコットになったので、てっきりそこで見つけたのかと思ってました。もしかしたら他の画像掲示板にも伝播したのかもしれませんね。「Omicha」は初めて知りました。
[4] 2005年に設立された海外の薬物関連の画像掲示板。詳しくは「メイドコア」の記事で
Yakuiさん
そうですね、それもよく知られていますよね。
(下記の画像を投稿するYakuさん)

Peter
(この画像は)TCC-tan[5]ですね笑。「Omichan」はロシアの薬物関連の画像掲示板ということで宜しいでしょうか。いま検索したのですが、何も情報が出てこなかったです。その掲示板で「ヤクいさん」がマスコットになったということでしょうか。
[5] 「420chan」のマスコットキャラ
Yakuiさん
掲示板が無くなってからしばらく経ってるので、探しても何も出てこないでしょう。
Peter
「420chan」みたいで興味深いですね。貴方はそこで「ヤクいさん」を見つけ、彼女の名前でVK[4]のアカウントを作ったということですね。
[4] ロシア最大のSNSと言われている
Yakuiさん
そうです。冗談でそのようなことを始めました。
Peter
そして2013年から彼女の名前で音楽をリリースし始めた。
Yakuiさん
そうですね。ただ音楽自体はそのずっと前から作っていました。
ジョークで始まった
Peter
貴方が「Yakui The Maid」を始めたとき、このように一つの音楽ジャンルになると思ってましたか。
Yakuiさん
いいえ、全くですね。人々がそれらを聴いて、音楽のジャンルとして扱ってることに今でも驚きを隠せません。
Peter
実は虹裏住人も虹裏メイドが音楽ジャンルになっていることに驚いてますよ。

Yakuiさん
驚きますよね。
Peter
インタビュー記事で、貴方がOzoiやYowai、Yabaiと友人だとおっしゃっていましたが、「Yakui」として音楽を出す前からすでに友人だったのでしょうか。それともそのあとに仲良くなったのでしょうか。[5]
[5] 「Yakui The Maid」で音楽を出した後、他のVKユーザーも「◯○ The Maid」を次々と始めた
Yakuiさん
音楽を出した後ですね。徐々にみんなと仲良くなりました。
Peter
なるほど、では貴方の音楽をVKで見つけ、そのスタイルをフォローしたということでしょうか。どのように「メイドコア」が始まったのかが気になります。
Yakuiさん
そんな感じですね。ジョークのような形で各々が始めました。スタイルとしては明確ですしね。
「メイドコア」の始まり
Peter
興味深いですね。貴方が「Yakui」を始める前から、VKでは虹裏メイドは人気だったのでしょうか。
Yakuiさん
そこはよく分かりませんが、VKには虹裏メイドのコミュニティが100人かそこらですでにありましたね。

Peter
なるほど、実は虹裏メイドは虹裏住人を除き、日本でもほぼ知られていない存在で、私も「メイドコア」に出会うまで、その存在すら知りませんでした。
Yakuiさん
これらのキャラクターはどれもキャッチ―なので、貴方ももっと知りたくなるでしょう。
Peter
そうですね、とても魅力的なので知れて良かったです。ところで「メイドコア」の名前がどこからきたかご存じでしょうか。というのも、ジャンルになるためには誰か名付け親が必要だと考えています。
Yakuiさん
2014年に私とOzoiで冗談でつけました。[6]
(下記の画像を投稿するYakuiさん)

[6] 2014年にYakui氏はOzoi氏とともにアルバム「Regressive Maidcore」をリリース
Peter
おお、「メイドコア」の名前はここから来たんですか。
Yakuiさん
「メイドコア」に関わってる人々も、このエピソードは知らないと思います。「コア」をつければジャンルになるというのは明らかですよね。
Peter
間違いないですね笑。「ロリコア」[7]というジャンルすらありますし。

[7] スピードコアやブレイクコアと「女性キャラの音声のサンプル」のハードコアテクノ
Yakuiさん
あと「ナイトコア」[8]なんかも。
[8] 曲のテンポとピッチを上げ、アニメのキャラの画像をつけたリミックス
ロシアからの影響
Peter
そうですね笑。ところで、「メイドコア」に関する記事を色々読んだんですが、貴方がOzoiと作った「Wonderland」について、誰もが重要作であると口にします。私も好きなアルバムですが、本作が「メイドコア」でどのように重要なのか、他にどのように影響を与えたのか知りたいです。
Yakuiさん
どれだけ重要なのかは分かりませんが、作るのはとても楽しかったですね。
Peter
このようなコラボ作品はまた作ることは考えてますか。
Yakuiさん
そうしたいですね。ただ状況が不安定ですからね。ここロシアだと。
Peter
ニュースでお聞きしてます、さぞ不安定な状況でしょう。インターネットで人気になった「ロシアン・ドゥーマー・ミュージック」[9]というものがありますが、その陰鬱でダークな雰囲気に「メイドコア」と連なるものを感じています。ロシアにいることからの影響もあると考えますでしょうか。
[9] 「ドゥーマー」というネットミームのイラストと共にロシア語圏のポストパンクを流すのが流行った
Yakuiさん
そうですね。ロシアは時々、住むのに気分が落ち込む場所です。
Peter
それを聞いて残念に思います。状況が良くなるように願っています。
Yakuiさん
大丈夫です。慣れてますので。
(下記の画像を投稿するYakuiさん)

日本からの影響
Peter
とても陰鬱な雰囲気の写真ですね。。今回の対話は私の日本語の記事に掲載するので、そこも踏まえて一つ質問させて頂きたいのですが、虹裏以外に、何か日本のサブカルチャーについてご存じでしょうか。
Yakuiさん
35歳やそれより若い世代は、大なり小なり日本のサブカルチャーに触れてると思います。例えば、アニメ、漫画、ノベルなどはとても人気になっています。
Peter
それらは貴方の音楽に影響したと思いますか。あのハードでダークな感覚がどこから来てるのかが気になります。
Yakuiさん
数年前はボーカロイドをよく聴いていました。サブカルチャーが何を指すかは分かりませんが、日本のメディアについては過去10-15年間で沢山吸収しました。私の音楽にもたくさん影響を与えたと思います。ただそれらのハードでダークな感覚は、私の個人的な経験から来ています。
Peter
なるほど、お気に入りのボーカロイドのプロデューサーなどいますか?
Yakuiさん
「Shiromeshi」ですね。様々なアーティストを含んだプレイリストがあったのですが、それがなくなり、バンド名を思い出すことができません T_T。あまり知られていないものもあり、多くが日本語の題名なので、私には読むことができません笑
Peter
笑。ありがとうございます。ボーカロイドについては詳しくないので、「Shiromeshi」についても知りませんでしたが、聴いてみます。現在、国を問わず、好きなアーティスト/バンドなどいますか。
Yakuiさん
たくさんいますね。Helio、Unfun、Nemertines、Neurological、Hanni Kohl、Limp Bizkit…笑。日本なら、死んだ僕の彼女、Boris、the pillows、Marmalade Butcher、ゲロゲリゲゲゲ…笑
Peter
かなりディープですね。。笑。ゲロゲリゲゲゲの名前を聞くとは思ってませんでした。
Yakuiさん
ゲロゲリゲゲゲは私の友人のお気に入りでした。初めて聴いた時はピンとこなかったんですが、今は楽しんでいます。また彼らのクールな逸話も大好きです。例えば、アルバムリリース後に物理コピーを全て破壊[10]したり、タコをカセットに張り付けて販売[11]したり。それらの逸話が本物なのかは分かりませんが、とてもクールだと思います。

[10] 江ノ島まで買いに来た人たちの前で火をつけて全て燃やした『愛人』というレコードがある
[11] 『Art Is Over』のカセットには切断されたタコの触手が入ってるという
Peter
分かります。彼らは日本人にさえほぼ知られていませんが、知れば知るほど好きになります。彼らは伝説的な存在で、ステージの上で自慰してそれを録音[12]するなど、他の誰もできないことをやっていましたね。
[12] ライブ盤『Live Greatest Hits』にはステージ上で自慰する録音が収められている
Yakuiさん
それも掃除機を使って。
Peter
待ってください。掃除機とは何のことでしょうか
Yakuiさん
その動画がVKにありました。
Peter
動画までもがあるんですか
Yakuiさん

Peter

Yakuiさん
これを私はアートと呼びます。
Peter
自分の知らなかった世界だ。。ところで、メイドは日本ではメイドカフェでより知られていますが、この文化は「メイドコア」に何か影響を与えたと思いますか。「メイドコア」の紹介動画を見て、ロシア語だったので内容についてはほぼ全く分からなかったのですが、どういうわけかメイドカフェについて語っていました。
Yakuiさん
恐らくないですね。ロシアには残念ながらそういった文化がありません。その動画とはFlynnのものでしょうか。彼はよく話題を変え、動画でも日本のメイドの歴史について語ってる部分がありました。私たちはそこまでメイドそのものに入り込んでるわけではありません。ただキャラクターが好きなだけです。少なくとも私に関しては。
Peter
そうです、その動画です。誰かが英語の字幕をつけてくれることを望んでいます笑。では「メイドコア」のイメージは全て、虹裏メイドから来たものなんですね。
Yakuiさん
私の英語力だと判断できないですが、YouTubeの自動翻訳は正確だと思います。「メイドコア」についてはそうですね。
Peter
自動翻訳をつけて見たんですが、かなりカオスでしたね。
Yakuiさん
ちょっと見ましたが、確かにロシア人だけにしか分からなさそうですね。
オリジナルメイド
Peter
話は変わるのですが、「fekalia the maid」[13]などロシア人が生み出したオリジナルメイドの存在を知って驚きました。
[13] ロシアのネットレーベル「J.W.Records」からのオリジナルメイド
Yakuiさん
私たちはそれを誇りには思っていません。
Peter
そうなんですか?理由についてお聞きしても宜しいでしょうか。
Yakuiさん
何故というと、名前の「fekalia」(ロシア語で「糞便」という意味)
Peter
汚いイメージがということですね。
Yakuiさん
彼は文字通り顔に反映させました。

Peter
まあ、確かに奇妙ですよね。
Yakuiさん
彼のことを直接知れば、良い人だというのが分かります。ただブレイクコアのコミュニティでの彼は変な感じです。
Peter
ブレイクコアのコミュニティは「メイドコア」のそれとはまた異なるのでしょうか。
Yakuiさん
そうですね。これが彼のプロジェクトで、「fekaliaよりも」シリアスなものです。


Peter
つまり、この「fekalia the maid」というのはジョークのような。
Yakuiさん
100%そうです。彼のほとんどの曲は、私の二つの曲からなるマッシュアップです。とはいえ、クリエイティブなものですが。
Peter
なるほど笑。つまりこれは例外ということですね。
Yakuiさん
他にも「Gay The Maid」などがいます。

Peter
「Fack The Maid」などもそうですね。

Yakuiさん
そうですね。
Peter
彼らは同じネットレーベル「J.W.Records」所属ですよね?
Yakuiさん
そうです。その二人とはまだ直接面識はありませんが。
Peter
他にも「メイドコア」のためにオリジナルメイドが作られたりしていますか?それとも彼らのみでしょうか。
Yakuiさん
分かりませんが、あまり気にしていません。ただ私のことをやるだけです。私自身は年を取ったのか、ここ数年間はそういったことを気にするほど、社交的ではないです。
「メイドコア」の今後
Peter
今後、音楽のキャリアで何か考えてることはありますか。
Yakuiさん
特にそういったことは初めから考えてないですね。ただ私にできることをやるだけです。分からないですが、Ozoiとまたコラボするのも良いかもしれませんね。
Peter
良いですね、喜ぶ人たちもきっといますよ。
Yakuiさん
私たちはどちらも超怠け者なので、あまり期待しない方が良いですが。
Peter
「メイドコア」の人気は高まってきていて、例えば「メイドコア」のSubredditができたり、Spotifyで専用のプレイリストが作られたりしていますが、そのことについてどのように感じられますか。
Yakuiさん
良いことだと思います。
Peter
今後、さらに「メイドコア」は人気になると思いますか。
Yakuiさん
分からないですが、恐らく。Chikoiのようなアーティストがもっといれば。
Peter
Chikoiは素晴らしいですよね。アルバムも良かったです。
Yakuiさん
ともかく、すでに私が期待していた以上に注目を受けているので、今のままで良いと思います。
Peter
貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございました。聞きたかったことについて、一通り質問できたと思います。
Yakuiさん
こちらこそ、ありがとうございました。
対談を終えて
私自身、これまでこのようにインタビューした経験がなかったため、不慣れな聞き方になったかもしれないと反省しています。
それにもかかわらず、Yakuiさんは丁寧に回答して下さり、とても謙虚で素敵な方でした。
またヤクいさんと出会った場所や「メイドコア」の名前の由来など、初めて知ることが多々あり、お陰でとても意義深い対談になったのはないかと感じています。

この記事をきっかけに、より多くの人が「メイドコア」について知り、また理解を深める助けになれば幸いです。

最後までお読み頂き、
ありがとうございました。
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